クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「どうせ乗るなら夜に、ってことか」
「夜……。ああ、夜景が見られるんでしょうね」
「陽が落ちてからまた来ようか?」
「でも、帰りが遅くなりますし……」
「門限は気にしなくていいんだぞ」

(本当にひどい)

 じくじくと胸が疼く。
 冗談めかした言い方はもちろん、私のしたいことをわかってくれているのがつらい。

「夜まで付き合ってくれるなら……後で来たいです」
「なんだったら閉園までいようか」

(どうして?)

 嫌だ、と泣きそうになる。
 自分の心がひどく不安定になっているのを感じ、こっそり深呼吸した。

「明日のお仕事に影響がなさそうなら、最後まで……お願いします」
「じゃあ、そうしよう」

 ぎゅっと手を握り締められる。
 頼もしくて、温かくて、たまらなかった。

(夏久さんにとっては、私の運動不足解消と気晴らしに付き合うためのものなんでしょ? デートじゃないんでしょ……? それなのにこんな扱いをされたら……)

 また、好きになる。
 それも救いようがないほど、深く。

「観覧車は後にするとして、ほかに乗りたいのは? ジェットコースターはだめだからな」
「……メリーゴーランドがいいです」
「頑張って白馬の王子様になってみるか」

 そんな冗談に笑ってしまう。笑いたい気持ちではなかったのに、心とは違う本能の部分が私を裏切った。
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