クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「……だからって、愛のない結婚をしたいとは思ってなかったです」
「…………」
「私……それだけは自分で選んで決めたかった」

 知らず、膝の上で手が震えていた。

「勉強しろと言われたから勉強して、行けと言われたから大学院へ行って。就職先だって父が知人の伝手を使って斡旋してきたんです。ずっとずっと、それに従う人生でした。だから、好きな人ぐらい自分で見つけてみたかった……」

 その第一歩があの“夜遊び”だった。
 ひとりでなにかができると思えたなら、きっと恋愛だってできると信じて。

「……やっぱり君は俺に似てる」
「夏久さんの方が、ずっと束縛が厳しかったと思いますよ。おうちがおうちですし」
「考え方の話だよ」
「…………」
「俺も親に言われた通りに今まで生きてきた。一条の後継ぎとして育てられて、そのために会社まで作らされた。社長業が楽しくないわけじゃないんだが、正直向いてない」
「そんなふうに思っていたなんて知りませんでした」
「誰にも言ったことがないしな」

 しばらく見つめ合う。
 もうすぐ観覧車は頂上に到達しようとしていた。
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