クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「どうして、私に話してくれたんですか?」

 これまで我慢していた「どうして」をついに言葉にする。
 夏久さんは少し黙って、視線を下げた。

「どんなことも、自分で選択してこうなったわけじゃない。……行きたい場所を聞かれても答えられないくらい、俺は自分で選ぶということを放棄してきたんだ」

 どうして、への答えにはなっていなかった。
 一拍置いて、夏久さんは再び顔を上げる。

「この結婚も、同じだな」

 ずきん、と強い痛みを胸に感じる。
 誰かに強制されてきた人生。わたしが夏久さんを結婚に縛り付けて、逃げられないようにしてしまった。

「ごめんなさい……」
「いや、謝るのは俺の方だ」

 少しだけ身を乗り出され、逆に距離を取ろうとしてしまう。
 でも、ここは観覧車の中で密室だ。逃げられるはずもない。

「たしかに選ばされた結婚だったと思う。でも俺は……反発しようと思わなかった。相手が、あの夜をともにした君だったから」

 伸びてきた手が、膝の上で固く握られていた私の手に触れる。
 びくりとしたけれど、振り払わない。
 そっと、大きな手包み込んでくれる。
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