クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「ごめん」
「っ……」
「わかってたのに、わからなかった。君が策略で結婚を迫るような人じゃないって」
「夏久さん……」

 震える声といっしょに涙がこぼれる。

「……人を信じるのが苦手なんだ。さっき“知り合い”の話をしただろ。みんな俺じゃなくて、俺の金が好きだった。どいつもこいつもそんな奴らばっかりで、君もそうなんじゃないかと……信じきれなかった」

 観覧車が一番高い場所を越えようとしているのに、夜景を見る余裕なんてなかった。

「本当に俺の持つものが目当てなら、寄り添おうと思わないよな。今日の外出先だって、俺の希望を聞く必要がない。結婚すれば目的を果たしたことになるんだから。だけど君は違った。俺がなにを言っても悲しそうに受け入れようとして……」

 私が感じていたものは全部顔に出ていたらしい。それを気付いていたことにも、そんな私になにかを感じていたことにも驚きを感じる。

「……っ、夏久さんなんて嫌いです」

 思わずそう言ってしまっていた。
 でも、触れてくる手を握り返す。

「わかってたなら、どうして冷たくしたんですか。今日までずっと……ずっと、私……」
「本当にごめん」
「嫌われてるんだと思ってました。ううん、憎まれてるんだって」
「嫌いになれていたら、逆に話が早かったのかもしれないな」

 がたんと観覧車が揺れた――と思ったとき、私の身体は夏久さんのぬくもりに包み込まれていた。
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