クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 向き合っていたはずなのに、夏久さんが隣へ移動してきている。
 私を抱き締めるためだけに。

「触れる資格はないんだろうが……。君と、君の子供を抱き締めさせてくれ」
「私だけの子供じゃないです。父親はあなたじゃないですか……」
「うん、そうだな」

 ぎゅう、と抱き締められて堪えてきたものが決壊する。
 夏久さんの背中に腕を回し、涙に濡れた顔を広い胸に押し付けた。

「お金のために妊娠するなんて、私にはできません……」
「知ってる。……なのに、疑った」
「今までそういうことをする人とばっかりお付き合いしてたんですか……?」
「あのなあ」

 ぽんぽんと私を撫でていた夏久さんがその手を止める。
 泣きじゃくる私の目尻に指を滑らせ、苦笑した。

「そういうのは夫に聞くもんじゃないだろ」
「……だって、自意識過剰じゃないですか。自分と結婚したくて妊娠したんだろうって、普通は言えないです」
「言われてみるとそうだな……?」

 ぱち、と瞬きしたはずみに涙のしずくが落ちる。
 ふたりの笑いが重なったのはその直後だった。
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