クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 凍り付いていた時間が動き出す。
 今感じているこの穏やかさは、初めて過ごしたあの夜と同じもの。

「なんだか、久々に君の笑ったところを見た気がする」
「私はときどき見ていた気がします。夏久さんが笑っているところ」
「……気付いていたのか」
「え?」

 また夏久さんの指が私の涙をすくう。
 そして、不意打ちのようにキスが唇をかすめた。

「君がかわいいから」

 驚いて目をぱちくりさせると、またぎゅうっと抱き締められる。

「雪乃さん」
「! は、はい」
「……もう一度、最初から始めませんか」
「なにをでしょう……?」
「俺たちの関係を」

 目をこすって顔を上げる。

「生まれてきた子供に、胸を張ってパパだって言いたい。……だめかな?」

 困ったように笑った顔は、やっぱり幼かった。
 ふる、と首を横に振る。

「だめじゃないです。パパのこと……私も頼りにしてますね」
「ああ。だけど――」

 言いかけて、夏久さんはまた私にキスをした。

「生まれるまでは、まだ君だけの夫でいたいな」
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