クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 入口のゲートへ向かう人々と、遊園地の中心部へ向かう人と、流れが二分化している。私たちは中心部へ向かう人たちの後に続いた。
 全エリアのちょうど真ん中にあるこのエリアでは、時間によってショーが行われる。そのためぐるりと広いステージを囲むようにして座る場所が用意されていた。
 すでに多くの人たちが集まり、残り僅かな時間を存分に楽しむべく花火を待っている。

「雪乃さん、ここ」

 ひとつだけ空いていた席を見つけた夏久さんが、すぐに私を座らせてくれる。

「夏久さんの席は?」
「俺は立ってるからいい」
「私だけ座るなんて……」
「いいから。あんまり言うなら、立てなくなるようにするぞ」

 そう言うと、夏久さんは私の後ろに回った。
 そして背中を包み込むように抱き締めてくる。

「こ、こんな場所で」
「こうでもしないと、花火中に立ち上がりかねないからな。重しとしては充分だろ?」
「こんな重し、いらないです……!」
「いらないって、あのなあ」

 夏久さんが笑ったのとほとんど同時に、隣の席の人が立ち上がった。
 別の場所にいる友人を見つけたらしく、そこへ走っていく。
 ほかの誰かが座る前に、すかさずその席へ手を伸ばした。
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