クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
・すべてから逃げ出して
気付けば、妊娠五か月目を迎えていた。
安定期に入り、今まで以上に問題なく生活を送れる――はずだったのに。
「う……うう……」
「大丈夫か? 無理するなよ」
ベッドに横たわった私を、夏久さんが心配そうに見守ってくれる。
その間、手をずっと握ってくれていた。
「まさか今になってつわりが始まるとはな……」
「今までも……なかったわけじゃないんです……」
「だけど、ここまでじゃなかった。……たしかにつわりがぶり返す例があるというのは聞いたが、逆に重くなるなんてな」
「う……」
吐き気はあるのに、胃の中にはもう吐くものがない。
自然と気持ちも鬱々としたけれど、そこまで落ちずに過ごせているのはやはり夏久さんのおかげだった。
「食べられそうなものは? またタルトを買ってこようか」
「果物だけ……なら……」
「わかった。買い占めてくる」
「普通に……お願いだから普通に買ってきてください……」
必死にそれだけを訴えて、夏久さんが暴走しないように引き留める。
あまり御曹司らしいところも社長らしいところも見せないけれど、どうもこれだという瞬間、突然お金の使い方がおかしくなる。
今では家事もハウスキーパーが行ってくれるし、料理もわざわざ今の私に合わせた専用のものを特注で用意してくれていた。