クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「奥様の前ではデレデレでしょうけど、会社では鬼社長で評判なんですよ」
「夏久さんが……?」
「余計なことを言うなら減給するぞ」
「ほら、鬼でしょう」

 強面なのに茶目っ気を見せられ、内容もあいまって笑ってしまう。
 秘書とこういうやり取りができるなら、きっといい会社なのだろう。

「私、夏久さんの会社での姿を知らないんです。いつかお時間に余裕があったら教えてくださいね」
「では、なるべくいい姿をお伝えできるようにします」
「……そんなに怖いんですか、夏久さんは」
「それはもう」
「橋本の言うことは聞かなくていい」

 夏久さんが間に割って入って、しっしと橋本さんを手で払う。

「人聞きの悪い奴だな。どこからどう見ても社員思いのいい社長だろ」
「昨年退職させた部長の話が尾ひれ付きで広まっていますよ。会議室に閉じ込めてマンツーマンで一時間、泣くまで逃がさなかったとか」
「一時間じゃなくて三時間だった。……各方面からヒアリングした諸々を問い詰めただけだ。出世を餌にしてセクハラを迫ったんだぞ。手加減してやる必要があるか?」
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