クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 ほう、と感心する。

「夏久さんが社長だったら、安心して働けますね」
「ほら、雪乃さんもこう言ってる」

 よしよし、と夏久さんが撫でてくれた。
 かなり恥ずかしくて逃げようとすると、ちょっとだけ残念そうにされる。

「お熱いようでなによりです」
「よく言う。お前も奥さんと仲良くやってるくせに」

 それを聞いて橋本さんの左手を見ると、薬指にきらりと光る指輪が見えた。
 その流れで自分の薬指を見てしまう。そこにはなにもない。

(……私も夏久さんに大切にされている自覚はある、けど)

 夏久さんと橋本さんがあれこれ言い合いうのを見ながら、ソファの背にもたれた。
 今日まで薄々思っていたことが、今、私の中で表面化する。

(子供の母親として認められた気はしてるの。でも……妻として愛されているかどうかはまた別だと思う)

 私の薬指にはなにもないまま。
 なにより一番引っかかっているのは――。

(……デートの日以来、一度もキスしてもらえてない)
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