クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい

 私を苦しめていたつわりが落ち着き、再び外を動き回れるようになった頃、夏久さんとふたりで遠出をすることになった。
 そこは水上アスレチックやキャンプ場が併設されていることで有名な公園だった。

「違う景色を見ながら運動する方がいいと思って」

 わざわざ来るまで連れてきてくれた夏久さんは、言わずとも恋人繋ぎで手を繋いでくれている。
 でもその行為がどういう感情と絡んでいるものなのか、私にはまだわからないでいた。

「水辺の方を歩いてみるか」
「はい」

 寄り添ってくれる夏久さんは優しいし、気遣いを感じると嬉しくなる。
 体調が落ち着いた今、手を握るというだけの触れ合いでもどきどきして意識してしまった。
 そうなると、なぜキスをしてくれないのだろうという気持ちが生まれた。
 しかもつわりのときは抱き締めて眠ってくれたのに、今はそれさえなくなっている。同じ寝室で眠るどころか、なにかと理由を付けて自室へ向かう始末だった。

(子供の母親と妻はまた別だもんね……)

 私たちの結婚に恋愛の文字はなかった。
 誤解が解けたとはいえ、急に気持ちが変化するわけではない。
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