クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(じゃあ、本当だったら夏久さんと結婚していたのは……)

「デキちゃった結婚だって聞いたけどほんとみたいね」

 百瀬さんの視線が私のお腹に向く。
 咄嗟にそこを手で庇ってしまった。

「親に決められた結婚なんてしないって言ってたのに、結局誰かの意思で将来を決められちゃったわけだ」
「おい、百瀬」
「そういう星のもとに生まれちゃったのかもね。かわいそ」

 ――私が夏久さんから奪ってしまったものについて、今まできちんと考えたことがあっただろうか?
 指先が冷えていくのを感じながら、一歩後ずさる。

「雪乃さん?」

 私の動揺に夏久さんが気付いてくれる。
 でも、そういう優しさに今まで甘えすぎてしまった。

「……っ、ごめんなさい……!」
「雪乃さん!」

 わき目もふらず駆け出す。
 背後から夏久さんが呼んでくれたけれど、振り返るわけにはいかない。

(婚約者のこと、初めて聞いた。それは……私に言えないことだったからじゃないの?)

 追いかけてこないで、と願って必死に逃げる。
 どこへ逃げるのかは考えていなかった。
 ただ“被害者”の夏久さんから、今はひたすら離れたい。
< 177 / 237 >

この作品をシェア

pagetop