クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(――苦しい)

 どうして夏久さんは追いかけてきてくれないのだろう。
 いや、それでいい。どんな顔をすればいいかわからないのだから。
 だけど抱き締めてほしい。
 そして、今まで一度もくれなかった言葉を聞かせてほしい。

(好き。好き……)

 心の中で想いを形にするたびに、ほろほろと涙が流れていく。

(こんなに好きだったなんて知らなかった……)

 いつから好きだったのかと言われれば、最初に出会った夜からだと断言できる。
 あの夜をきっかけに私は恋を知った。。
 そうしてともに過ごしたことで恋は形を変えてしまった。
 知らないうちに育み、大きくなった想いの名前はきっと愛という。

(愛してる……)

 けれど、夏久さんの想いは?
 涙を堪えようと必死に唇を噛み締め、目を閉じたときだった。

(……あ)

 ――ぽこ、とお腹に微かな動きを感じた。
 触れてみると、応えるようにもう一度内側から蹴られる。
 まだ、母親になることに対してどこか現実感がなかった。
 それが今、はっきりと変わる。

(……ごめんね)

 ぎゅ、と自分のお腹を抱き締める。

(お母さん、頑張るね……)
< 179 / 237 >

この作品をシェア

pagetop