クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「もう嫌なんです。だから……離婚してください」

 好きだから、自由になってほしい。
 夏久さんが望んだ人生を歩めるなら、側にいたいという願いも捨てられる。

「子供にはいつでも会いに来てください。でも、結婚生活はもう……」
「俺は、そんなに君を苦しめているのか?」

 さっき手をほどいたのに、また握られる。
 視線を落とすと、夏久さんの指先が白くこわばっていた。

「離婚したいと思うぐらいつらいのか……」

 是とも否とも言えない。それはどちらも嘘になる。

「……離婚してください」

 三度目の願いを告げても、夏久さんは首を横に振った。

「それはできない。せめて……別居にしてくれ」
「どうして……」
「離婚すれば他人にならざるをえなくなる。君になにか起きても、一番最初に駆け付けられない。だけど夫なら……」
「……そう、ですね」

 最後の最後まで夏久さんは子供のことを案じてくれていた。
 ここまでの思いを無下にすることは、さすがにできない。

「わかりました。しばらく実家に帰らせてください」
「……なにかあったらすぐ連絡してくれ。お願いだから」
「……はい」

 ――そうして私は夏久さんとしばらく離れて暮らすことになった。
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