クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「……夏久さんもそうやって触ってたんだよ」
「……そうか」
「触ったからって潰れたりしないよって言ったら、縁起でもないことを言うなって怒られたの」

 遠い昔のように感じられて、つんと鼻の奥が痛い。

「普通に触ればいいのに。お父さんも」

 そう言ってからやっと、父が私のお腹に触れた。
 活発に動くようになった赤ちゃんが、その手を一生懸命蹴ろうとする。

「……いい男だな」
「え?」

 ゆっくりゆっくり私のお腹を撫でながら、父が顔を上げずに言う。

「父さんが宝物だと思って触るものを、夏久くんも同じように思って触ろうとしたってことだろう」

 ふ、と笑う気配がした。

「普通に触れるわけないじゃないか。大事な娘の子供がここにいるんだぞ」
「……っ」

 その言い方があまりにも優しくて、同時に夏久さんに言われているようで泣きそうになる。
 夏久さんも今の父と同じように思ってくれたのだろう。本人に聞かなくてもわかる。あれだけ子供のために尽くしてくれた人なのだから。

「最初はけしからん男だと思ったんだけどなあ。結婚前に人の娘に手を出すなんて、男の風上にも置けないだろう。ましてや子供まで作って」
「……うん」
「どうして一緒にいることをやめたのか、お前が話したくなるまで聞かないことにしようって決めてたんだ。だが……いい加減聞かせてくれ」

 そこでようやく父が顔を上げる。
 困ったようにしながらも、心配そうに私を見つめて。
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