クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「ケンカでもしたのか?」
「っ……ううん」

 父はずっと私を心配してくれていた。
 聞かずにいたのは私を気遣っていたからで、関心がなかったわけではないのだ。

(私、また自分のことばっかりだった)

 夏久さんを苦しめないために逃げてきたのに、今度はなにも言わなかったことで父を苦しめていたのかもしれない。

「ケンカじゃ、なくて……もっと……ううん、うまく言えない……」
「……お前が自分のことをうまく言えないのは、きっと父さんのせいなんだろうなあ」
「そんなこと……どうして……」
「なんでも父さんが決めてきただろう。……よくなかったな」

 思いきり首を横に振る。

「それでいいって思ったから受け入れてたの。お父さんはなにも悪くないよ」

 お腹に置いた手に、ぽこ、と鼓動にも似た振動を感じる。

(――でも、不満に感じなかったわけでもなかった)

 どんなことでも飲み込めるほどいい子ではなかった。
 だからひとり暮らしをしようと思って“夜遊び”に繰り出したのだから。

(今までそういうことを言ってきたっけ)

 父に対して希望を告げたのは、ひとり暮らしの件だけかもしれない。
 ならば、夏久さんに対してはどうだっただろう。
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