クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい

 外に出てタクシーを拾い、夏久さんの家の側まで向かう。

「あ、ここで大丈夫です」

 道が混んでいてなかなか進まないのを見かね、途中で止めてもらった。
 代金を支払ってから降りると、すっと背筋が伸びる。
 今日まで連絡しなかったことを怒っているかもしれない。
 あのときは離婚を拒んでいたけれど、その準備をしているかもしれない。

 悪いことばかり考えて踏み出す足が重くなった。
 それほど遠い距離で降ろしてもらったつもりはないのに、目的の高層マンションが遠く感じる。

(行くなら、先に連絡した方がよかったかも)

 また自分のことを優先させて、夏久さんのことに頭がいかなかった。
 反省しながら携帯電話を取り出そうとし、足を止める。

(……え、どうして)

 マンションの前に夏久さんが立っていた。
 時計と携帯とを確認しながら――まるで誰かを待っているかのように。
 立ち尽くす私は目立って見えたのか、夏久さんがこちらを向く。
 距離は遠い。
 でも、安堵の表情を浮かべたのがわかった。
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