クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(夏久さん……)

 婚約者のこと。愛されていない不安。そして今日まで連絡を取らずに逃げてしまった罪悪感。
 いろんな思いがあったはずなのに、夏久さんを見た瞬間全部消えてしまった。

(――やっぱり、好き)

 無意識に足が動いて、夏久さんまでの距離を縮めようとする。
 歩いていたのが早足になって、ほとんど駆け出しているのと変わらないぐらい急いで。

「夏久さん……!」

 彼もまた、私に向かって駆け寄ってくる。

「走るな!」

(一か月振りに会って最初に言うのがそれ?)

 おかしくて笑いながら、近付く夏久さんに手を伸ばす。
 あと少し、と思ったその瞬間だった。

(……う)

 ずきんとお腹に鈍い痛みが走る。
 次いで船の上かと錯覚するほどの揺れを感じた。
 立っていられずに膝をついても、ひどい眩暈が消えない。

(……っ、だめ)

 子供だけは守らなければとお腹に腕を回す。
 そんな私をあざ笑うように、すう、と指先から力が抜けていった。

「雪乃さん!」

 伸ばした手は夏久さんに届いた。
 でも、再会を分かち合う前に意識が遠くなる――。
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