クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
・今まで知らずにいたこと
――誰かに名前を呼ばれた気がした。
ぼんやり目を開けると、歪んだ視界に見知った人の顔が映る。
「夏久さん……?」
「目を……覚ましたのか……?」
ぎゅう、と手を握る夏久さんが、一拍の後に顔を歪める。
泣きそうだと他人事のように思っていると、夏久さんは私の手を祈るように両手で握ったまま頭を垂れた。
まだ頭が追い付かなかったけれど、どうやら私は病院にいるらしい。
白い清潔なベッドに点滴のための器具。しかも個室だ。
「……っ、よかった。本当に……」
うつむいた肩が震えている。
「赤ちゃんは……?」
「大丈夫だ。元気だよ」
「よかった……」
「よくない」
ぎゅ、とさっきよりも強く手を握られる。
「目を覚まさないかと思った」
「心配かけてごめんなさい……」
「君のお父さんから連絡をもらっていてよかった。もし、迎えに行こうと思わなかったら、間に合わなかったかもしれない」
「お父さんが……夏久さんに?」
「ああ。……この一か月、毎日君の状態を報告してくれていた」
「え……」
それは知らない。聞いていない。
そんな素振りを、父も一切見せていなかった。