クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい

 ――元婚約者の百瀬みのりと、公園で出会ったときのことだった。

「雪乃さん!」

 走り出した雪乃を追いかけようとしたとき、くっと腕を掴まれて引っ張られる。
 苛立ちを覚えて振り返ると、百瀬が険しい顔をしていた。

「夏久くん、雪乃さんに私の話をしていなかったの?」
「忘れていたんだ」
「そこは説明しなさいよ。いくら形だけの婚約だったって言っても」

 自分から掴んだくせに、汚らわしいものでも触れたように振り払われる。

「話は後にしてくれ。雪乃さんを追いかけないと」
「……ひとりにしてあげた方がいいんじゃない?」
「そういうわけにはいかないだろ。ひとりの身体じゃないんだ」
「だけど、逃げ出す程度には冷静じゃないわけでしょ。追いかけたところで、泥沼になるだけだと思うけど」
「だからって……」
「夏久くんも落ち着いたら? ちょっと普通じゃないよ」

(普通じゃないって、なんだ)

 焦りと、これまで漠然と感じていた不安がないまぜになる。
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