クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「脱兎のごとく、ってああいうのを言うのかなって思っちゃった。ずっと夏久くんから逃げたいと思ってたのかと」
「……っ」

 可能性は、ある。
 最初から間違い続けて、ようやく関係が修復できたはずなのに噛み合わない日々を過ごしていたのだから。

「あ、ごめん。私、ほんと余計なことしか言ってないね」
「……ほんとにな」
「私が行くとこじれそうだし、雪乃ちゃんには夏久くんから謝っておいてくれる? 落ち着いた頃にちゃんと会わせてくれたらいいから」
「君に会わせたら雪乃さんに悪影響が出そうだから嫌だ」
「悪影響って……。人のことなんだと思ってるの、もう」

 気が逸る。雪乃さんを追いかけたいが、百瀬の言う通り俺から逃げたがっていたのだとしたら、ひとりにした方がいいのだろうか。
 こういうときにどうすればいいのかがわからない。

「ねえ、なんで雪乃ちゃんと結婚したの? ……ううん、どうして雪乃ちゃんがいいと思ったの?」

 結婚の理由は子供ができたからだとはっきりしている。
 百瀬が言っているのは“なぜ、雪乃さんとそこまでの関係に至ったのか”だ。
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