クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 この選択は間違っていない。
 けれど、この瞬間は間違っているかもしれない。

 そんなふうに思ったのはどちらが先だったのだろう。

 わからないまま、どちらからともなく唇を重ねてみる。
 そうしてみるとあまりにもしっくりきてしまった。
 言葉を交わさない時間にすることは見つめ合うことではなく、想いを伝えること。ようやくすべてが正しくなったような気がした。

「本当にいいのか?」
「……はい」

 柔らかな音がした、と気付いたときにはもう、シーツの上になだれ込んでいる。先ほどはもっとためらいがちだったキスが回数を増し、触れるだけだったのが次第に深くなっていく。

「……っ」

 小さく漏れ出た声が衣擦れにまぎれた。
 また、見つめ合う。
 気付けば二人とも肩で息をしていた。
 キスだけでこんなにも夢中になってしまったのかと、恥ずかしさにも似た思いを抱く。
 きっと二人とも酔ってしまっている。その原因が一緒に飲んだカクテルだとは思わない。
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