クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(もっと伝えるべきだったのか? それとも伝えられていないままでいてよかったのか……?)

 彼女は「もう嫌だ」と言っていた。
 下手に想いを伝えていれば、つらい気持ちを言えずに気に病んでいたかもしれない。そういう女性だというのは知っていた。

(前兆はあったんだよな。遊園地でも忘れたいって言ったり)

 思い出にしたくないのだと言われたとき、すっと血の気が引いたのがわかった。
 彼女にそこまで言わせた自分の罪を突き付けられたようで。

(期待して、甘えていたのは俺の方だ)

 傲慢で自分勝手だった日々を振り返り、苦い思いでいっぱいになる。
 接し方がわからないときでも、雪乃さんは寄り添おうとしてくれた。
 ただの外出だと言っても、頑なにデートだと言い続けていた。

 聞き間違いかと錯覚するくらいあっさり「好きだ」と言われたあれも、内心かなり動揺した。
 どういう意味の“好き”なのか聞いてみたかった。もし同じ気持ちなら嬉しかったし、子供の父親としてという意味なら少し寂しかった。

 けれど、やはり騙されているのかもしれないという疑念を完全に拭いきることができなくて、結局聞けずに終わってしまったことを今でも悔やんでいる。
 好意を見せてくれたから、大丈夫なのだと勝手に思っていた。
 なにが大丈夫なのか自分でも説明できないというのに。
 溜息を吐く。
 携帯電話を取り出し、以前教えてもらった番号に電話をかけた。
 何度目かのコールを経て、相手が出る。
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