クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
『もしもし、東です』

雪乃さんの父親である裕一さんだった。

『夏久くん? どうかしたのか?』
「その……雪乃さんは元気ですか?」

 彼女が出て行ってから、すぐにこうして電話をした。どのタイミングでも構わないから、雪乃さんの状態を教えてほしい、と。
 裕一さんから電話をしてもらうつもりで言ったのに、いつも俺の方からしてしまっている。

『元気にしているよ。放っておくと料理をしようとするんだ。座っていろと言っているのに』
「わかります。意外と動き回るんですよね」
『昔からこうだったよ。おとなしいんだか活発なんだかわからない。静かに本を読んでいた五分後には、家中の壁にクレヨンで絵を描き始めたりな』
「雪乃さんが? どうしてそんなことを」
『本にあった花畑の絵がきれいだったから、自分も家を花畑にしたかったんだそうだ』

 ふっと思わず吹き出してしまう。
 雪乃さんならやりかねないかもしれない、と今の成人した姿しか知らないのに思ってしまった。

「元気そうならよかったです」
『……雪乃もだいぶ落ち着いたようだ。なにがあったかは知らないが、そのうち帰るだろう』
「……ありがとうございます」

 ほかに二、三会話して電話を切る。

(同じように親が決めた道しか選べない人生だったのに、それでも父親を好きだと思えるのは彼女の性格かな)

 話していて娘思いだというのがわかる人ではあった。
 第三者から見てわかるなら、張本人にも伝わりやすいのかもしれない。
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