クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい

 俺にとっては見慣れた屋敷に足を踏み入れると、自然と喉がからからになった。
 この家にいるといつも緊張する。夏久という個ではなく、一条のひとり息子という目でしか俺を見てこなかった両親は、どんな小さな失敗も許さなかったからだ。

 まっすぐ向かった先は離れだった。
 母屋とふたつの離れは庭に面した廊下で繋がっている。
 今は夜で見えないが、昼間ならば池と椿が見える。

 いかにも純和風といった風情はあまり好きではなかった。今の住居を徹底的に洋風に寄せたのは、実家を思い出したくなかったからというのが大きい。
 一番奥の部屋へ向かい、遠慮なくふすまを開く。
 そこには案の定両親の姿があった。

「ただいま」
「お前……どうしたんだ、急に」

 驚いた父は、最後に見たときより老けている。

「帰ってくるなら、連絡のひとつぐらい入れなさい」
「帰ろうと思ったのがついさっきだったんだ」

 母に言って、目をそらす。
 ふたりともあまり俺に似ていない、と思っているが、そう思いたくないだけかもしれない。
< 203 / 237 >

この作品をシェア

pagetop