クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
俺にとっては見慣れた屋敷に足を踏み入れると、自然と喉がからからになった。
この家にいるといつも緊張する。夏久という個ではなく、一条のひとり息子という目でしか俺を見てこなかった両親は、どんな小さな失敗も許さなかったからだ。
まっすぐ向かった先は離れだった。
母屋とふたつの離れは庭に面した廊下で繋がっている。
今は夜で見えないが、昼間ならば池と椿が見える。
いかにも純和風といった風情はあまり好きではなかった。今の住居を徹底的に洋風に寄せたのは、実家を思い出したくなかったからというのが大きい。
一番奥の部屋へ向かい、遠慮なくふすまを開く。
そこには案の定両親の姿があった。
「ただいま」
「お前……どうしたんだ、急に」
驚いた父は、最後に見たときより老けている。
「帰ってくるなら、連絡のひとつぐらい入れなさい」
「帰ろうと思ったのがついさっきだったんだ」
母に言って、目をそらす。
ふたりともあまり俺に似ていない、と思っているが、そう思いたくないだけかもしれない。