クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「初めて自分で決めた相手なんだ。反対しないでくれ」

 たったそれだけを言うのに、ひどく声が震えた。
 部屋には入らず、その場で正座する。

「家の後は継ぐし、今の会社もこのまま続ける。だから彼女のことだけは認めてください」

 頭を下げると、微かに息を呑む気配があった。

「……そこまでするほどの相手なのか?」
「この程度じゃ足りないくらいの相手だ」
「お前は騙されてる」
「違う」

 正直、耳に痛い言葉だった。
 かつて同じことを、俺も彼女に思ってしまったのだから。

「そういう人じゃない」
「やっぱり家から出すべきじゃなかったな。おかしな女と出会うこともなかっただろうに。今からでもうちに戻ってきなさい。後はいいようにやっておく。その女のことも含めて。大丈夫だ、もっとふさわしい相手がすぐに見つかる――」
「彼女しか好きになれないんだ……!」

 額を床につけたまま、今日は逃げずに向き合う。

「彼女じゃないなら、ほかの誰でも同じだ。そのぐらい特別なんだよ」
「聞き分けろ、夏久! そんなものは今だけだ。すぐ頭が冷え――」
「あなた」

 母が口を挟んだのが珍しくて、思わず顔を上げた。
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