クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「なんにもしてくれないから、子供の母親としてしか見られてないんだと思って……」
「なにかできるわけないだろ……? 身重の君に負担をかけられない」
「負担?」
「キスしたらそれだけじゃ止められなくなる」
「……!」

 もう限界まで顔が火照っていると思ったのに、まだ熱くなる。
 顔から火が出るどころか、自分が火そのものになってしまったかのようだった。

「つわりで苦しんでる間、せめて安心できるように抱き締めて眠ったよな。君のためにやったことだったが、正直、拷問だった」
「そ、そんなの知らなかったです」
「夢にまで見てたんだぞ」
「夢!?」
「三十二年生きてきて、あんなに我慢したのは初めてだったんだからな」
「ご……ごめんなさい……?」
「埋め合わせは無事に出産してからにしてくれ」

 そう言って、夏久さんは大きく息を吐いた。

「……恥ずかしいだろ。いい歳をした男が、年下の妻にここまで夢中になってるなんて」
「全然恥ずかしくないです」

 嬉しい、という気持ちが振り切れる。
 どうしてここまで愛されていたことを気付かずにいられたのか、そっちの方がわからない。
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