クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「私だっていい歳をして、年上の旦那様に夢中です」

 今、きっと私はものすごく気の抜けた笑みを浮かべてしまっている。
 だって、頬にまったく力が入らない。真面目な顔をしようとしても、一秒後にはにやけてしまう。

「今、抱き締められてるだけで幸せです。夏久さんの匂いがするから」
「そういえば匂いフェチだったな」
「夏久さんだけです。初めての夜もこの香りのせいでどきどきして……好きになって。結婚してからももう一度抱き締めてもらえたらいいなって……」
「……あ」

 不意に夏久さんが声を上げる。
 そして、私が顔を埋めていた自分の胸元に視線を落とした。

「以前、シャツにファンデーションが付いていたときがあったんだよな。洗い立てだったはずなのに」
「……え」
「あれは君のせいか」
「……! す、すみません、付いていましたか」

 ずいぶん前に、洗濯したシャツが顔に向かって飛んできたときがあった。
 そのとき、顔を埋めさせてもらったのを思い出す。

「汚したことにも気付かないくらい夢中になって、俺のシャツの匂いを嗅いでたわけだ」
「あの一回だけです……!」

 はは、と夏久さんが笑った。
 子供みたいな屈託のない笑みに眩しさを感じたとき、ふわりと抱き締められる。
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