クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「次からはシャツじゃなくて本物にしな」
「いいんですか……?」
「いいよ。俺も雪乃さんを抱き締めるのが好きだから」

 許しをもらって夏久さんの胸に顔を押し付ける。
 男性というものを強く意識させられて、胸がぎゅうっと苦しくなった。

「ずっと、こうしてほしかったんです」
「大事な奥さんの望みにも気付けない夫ですまないな。これからは毎日抱き締めるよ」
「夜もこうやって寝てくださいね。すごく安心するので」
「安心するのは君だけなんだよな……。俺はそれどころじゃない」

 夏久さんの香りに包み込まれて、胸の奥に隠していたものが全部溶けていく。
 悲しい気持ちはすべてなくなってしまった。
 代わりに、愛おしい気持ちがだだ洩れになる。

「私、ちゃんと夏久さんの奥さんになれますか?」
「もうなってる。君以上の人はいないよ」

 頬に触れられて、その手に顔を寄せる。

「今は我慢しなくていいか」

 顎を持ち上げられて、唇と唇が重なった。

「愛してる。毎日言ってもいいかな」
「恥ずかしいから、ときどきにしてください」
「なら、毎日言う」
「じゃあ私も言いますからね。恥ずかしくなっても知りませんよ」
「俺が恥ずかしくなるまで、何回でも言ってもらおうか」
「えっ」

 再び、愛しているという囁きが唇の表面を撫でていった。
 直後にぬくもりが触れて、吐息を飲み込まれる。
< 213 / 237 >

この作品をシェア

pagetop