クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい

 季節が変わり始めた頃、私は半日かけて娘を出産した。
 目尻が垂れているところは私に似ているけれど、鼻筋や愛嬌のある顔立ちは夏久さんに似ている。

「お疲れ」
「はい」

 ベッドで横たわる私を、夏久さんが労ってくれる。
 その横には父もいた。目が赤くなっていることには気付かない振りをした方がいいのかもしれない。

(私もお母さんになったよ)

 ベッド脇の小さなテーブルには母の遺影が置いてあった。心なしか映った笑顔が嬉しそうに見える。天国で孫の誕生を喜んでいるのだろう。

「お義父さんも今日まで本当にありがとうございました。不甲斐ない夫で大変ご迷惑をおかけしてしまいましたが、これからは雪乃さんと娘を絶対に幸せにしてみせます」
「ああ、ぜひそうしてくれ。夏久くんにだったら雪乃を任せられる」

(やけに意気投合してる気がする)

 やはり私が実家に帰っていた間にそうなったのだろうか。ふたりは私に知らせずに連絡を取っていたらしいから。
 涙ぐんでいた夏久さんが母の遺影の横に置いてあったファイルを手に取る。
 ずっと気になっていたものだった。
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