クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「それ、なんですか?」
「この日のために用意しておいたんだ」

 開かれたファイルにはパソコンでまとめたらしい資料がぎっしり詰め込まれている。
 その中身を流し見てぎょっとした。

「娘だろうって言われてたが、一応息子の名前も考えてあったんだ。おかげで膨大な量になった。とりあえず娘の名前候補はここからだ」

 そう言うと、夏久さんはファイルの途中を開いてみせる。

「百じゃ足りないだろうと思って、千くらい用意してみた。……いろんなものの中から、好きなものを選べる方が幸せだろ」

 それが夏久さんにとって、どれほど大きな意味を持つことか。
 私にとってもそうだったけれど、きっと感慨深い思いを抱いているだろう。
 ただ、どう考えても度を超えている。

「千はちょっと多すぎるような……」
「縁起のいい漢字も揃えておいたからな。総画数も考えた方がいいらしいから、そこも踏まえて――」

(備えあれば憂いなし、っていうよりは、単純にやりすぎなだけ……?)

 そういう人だったと改めて噛み締める。
 心配する気持ちも喜びも、全力で表した結果がこうなのだ。
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