クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
・義務からの結婚
あれから私はひとり暮らしをすぐにやめてしまった。
再び実家へ戻ってきた私に、父はなにも言わなかった。ただ「おかえり」とだけ言って、それまでと同じ日々を過ごし始める。
私もぼんやりした毎日を送っていた。
あの夜を思い出すと焦がれるように胸が締め付けられる。
目覚めたときに私がいなかったことで、夏久さんはどう思っただろう。
裏切ったような気がして悲しかった。素晴らしい夜だと思ったからこそ大切にしたいのに、私自身が思い出を汚してしまったようで。
じくじくといつまでも治らない傷のように、不安と恐れが私を苛んでいた。
一瞬で恋をした相手と夜をともにしてしまったと知ったら、父はきっと軽蔑するに違いない。そんなことをしてしまった自分自身の愚かさを、すべて終わってから気付くとはそれこそ愚かな話だった。
毎日が重く苦しい。会社の業績がどんどん悪くなり、見知った顔が残らず消えてしまったのも追い打ちをかけた。
やがて、私も退職を決めた。転職先が決まっていない不安は残っていたけれど、罪を犯した後悔に比べればどうということはない。
父もしばらく休めばいいと言ってくれた。私の様子がいつもと違っていることに気付いていたのだろう。