クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
私が退院し、体調も落ち着くようになる頃にはもう話が進んでいた。
どうやって連絡を取ったのかは知らないけれど、父は夏久さんを呼び出すことに成功したらしい。
それが、今日。
「話は聞いた。……君は俺の子を妊娠しているそうだな」
我が家にやってきた夏久さんは、父に睨まれながら私と向き合った。リビングがこんなに居心地の悪い場所に変わったのは、生まれて初めてである。
あの夜と違い、夏久さんの態度は冷ややかだった。
くるくるとよく感情の変わる人だと思ったのに、今はぞっとするほど無表情で、思考を一切読ませない。
「……ごめんなさい」
「謝らなくていい。……体調は大丈夫なのか? 倒れたと聞いたんだが」
「はい。一応……ご心配おかけしてすみません」
「だから謝らなくていい。君のお父さんからも言われたことだが、俺にも責任のあることだからな」
そう言うと、夏久さんは懐から見慣れない紙を取り出した。
今まで実物を目にしたことはない。けれど、それがなんなのかは知っている。
テーブルの上にその紙が広げられる。
すでに夏久さんの名前が刻まれていた。
「結婚しよう」