クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(社長ってなにをするのかな)

 私にはいまいち想像がつかない。
 ただ、あまり気が休まらないポジションだろうとは思っている。
 家にいても電話がかかってくることが多いし、急に出かけることも少なくはなかったからだ。

「今日はこの後、家でお仕事ですか?」
「……特に用事がないならそうだな」

 無視だけはしない夏久さんは、以前に比べれば当たりが柔らかくなった気がする。
 それでも私との距離はあるし、目もあまり合わせてくれない。

(散歩に誘ったら一緒に行ってくれたり……。……無理かな)

 提案しようとしたものを飲み込む。
 先生の言っていたことを言えば、きっといい気はしないだろう。
 それが子供のために必要なら夏久さんは付き合ってくれる。けれど、私が望んでいるのはそういうことじゃない。

 足音だけがゆっくり繰り返される。
 私が話しかけなければ夏久さんは話してくれない。
 初めて出会ったときは沈黙も心地よかったのに、今は息苦しかった。

「あの……もし時間があるなら、ちょっとだけ寄り道をしていくのは……」

 一緒に散歩をしよう、とまでは言わない。
 夏久さんが断れるように言葉を選びながら告げるけれど、すぐに返事はなかった。
 数歩歩いて、ようやく口を開いてくれる。

「俺が君に付き合うのは、子供の父親として責任を果たすべきだと思っているからであって、それ以上の意味はないんだ。なにか期待しているようなら、やめてくれ」
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