クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「……ごめんなさい」

 結婚してから少しは距離が縮まったのだと思っていた。そう思いたかっただけなのだと、冷たい言葉で思い知る。
 誤解は解けていないし、妻としてなにもできていないのだから当然である。
 自分の甘さに苦い思いを抱きながら、無理に笑ってみせた。

「これ以上お願いするのは図々しかったですね。もうすでにいろいろしていただいているのに」
「…………」
「……大丈夫です。でも外に出るなとは言わないでくださいね。先生もああ言っていましたし」
「……出てもあまり家を離れるなよ」
「じゃあ、出掛けても公園までにします」
「そうしてくれると助かる」

 家の近くにはそこそこ大きな公園がある。
 朝や夕方にはジョギングをする人がおり、昼頃は子供たちの笑い声が絶えない。
 公園の中心には大きな池がある。時期によっては蓮の花が咲くとのことだった。
 あの池の周りをぐるりと一周すればいい運動になるだろう。

(でも、ひとりなんだよね)

 その事実を受け止めようとすると鼻の奥がつんとする。
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