クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「すみません、メニューをいただけますか?」
「おっと、失礼いたしました。どうぞ!」

 店の奥へ向かおうとしていた女性店員が振り返ってやってくる。
 差し出されたメニューを開いてみると、横文字がたくさん並んでいた。

(仕事の付き合いでそこそこお酒は飲んでたけど……こういうカクテルって初めて)

 カシスソーダやスクリュードライバーくらいなら、私だってどんなものかわかる。
 けれど、スティンガーやマンハッタン、ニコラシカにスカイ・ダイビングと並ばれるともうわからない。
 バーに来慣れた人ならば、名前を見ただけで使われている材料がわかるのだろう。

 私は名前だけで飲めそうかどうかを判断しなければならない。
 お酒に弱いと思ったことはないけれど、女ひとりで酔い潰れるまで飲むのは危険が過ぎるだろう。
 眉間にしわを寄せながらメニューとにらめっこする。
 一応ウィスキーもいろいろな銘柄があった。父が嗜むのを見てきたから、それなら多少はわかる。でも、私が今夜のお楽しみに選びたいのはカクテルだった。

(これ、アイスティーってことは紅茶のお酒なのかな)

 メニューの中から気になる名前を見つけ、少しほっとする。
 “夜遊び”のお供が私の中で決まった瞬間だった。
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