クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 自分でもどうすればいいかわからないまま、流されて今日まで来てしまったせいで、誤解を解く方法を考えたことがなかった。
 まずはそこから変えていかなければならないのに、どんな言葉を伝えれば夏久さんにわかってもらえるのかわからない。

 今、彼の中で私は詐欺師と変わらない扱いだろう。
 資産目当てにベッドをともにし、妊娠して結婚を迫った――と見ているのだから。

(それを信じるくらい、今まで嫌な思いをしてきたんだろうな)

 普通の感覚だったら「自分と結婚したいからそんな真似をしたんだろう」とはなかなか言えない。
 夏久さんの持っているものは想像以上に大きい。それによっていいことも悪いことも――おそらくは特に悪いことの経験が多かったのだろうと予想できる。
 そこまで考えてから、ああと小さく呟きがこぼれた。

(私、夏久さんのことをなにも知らないんだ)

 出会ったときからずっと、夏久さんは自分のことを語っていない。
 ただ一言だけ、抱えているものを匂わせはしたけれど。

 ――俺も素直にそう言えるような人生を歩みたかったな。

 父に厳しく育てられて大変だったけれど、そこまでしてくれたことを誇りに思う――と私が言ったときのことだった。
< 90 / 237 >

この作品をシェア

pagetop