クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
以前より冷めた日々を送っていたある日のことだった。
休日を迎え、私はすっかり日課になった散歩へ出ようとする。
玄関で靴を履いていると、ちょうど部屋から出てきた夏久さんと目が合った。
「どこへ行くんだ」
「お散歩に行ってきます。今日もいい天気なので」
一緒にどうですか、という願いがこぼれてしまわないよう、答えてすぐ口を閉じる。
「……お昼までには帰ります」
見つめられていることが落ち着かなくて、もう一言だけ告げた。
この空気から逃げようと背を向ける。
ドアを開ける直前、近付く足音が聞こえた。
振り返ると、夏久さんがこちらまで来ている。
「どうかしましたか……?」
「毎日、この近所だけで飽きないのか?」
「たしかに飽きますけど、どちらにせよあんまり遠出はできませんから」
「……悪い。あまり遠くへ行くなと言ったのは俺だったな」
「気にしてませんよ」
どうしてまだ会話を続けようとしているのかわからず、それきり言葉を失ってしまう。
夏久さんは部屋に戻るわけでも、私と外に出ようとするわけでもなく、ただ立ち尽くしていた。