本命は君なのに
私は降車してくる人達の邪魔にならないように一歩端へ右へ寄った。
通勤、通学時間帯。
いつもの事だが、降車してくる余りの人の多さにたじろいでしまう。
そして、最後の一人が降りて来るのを待っていた。
すれ違い様に私の左横を通り過ぎる人の顔を私はチラッと見た。
透明感のある綺麗な肌の男子校生。
私よりも背がすらりと高い。
なんて、魅力的な顔立ちなんだろう。
弾丸で胸を撃ち抜かれるみたいに、一瞬で彼に心が奪われた。
私はゆっくりと息を飲みこんだ。
その時のことをきっと例えるならば。
まるで強力な磁石に急に引き寄せられて吸い込まれるような感覚に近かったのかもしれない。
彼はブラックホールだ、危ない。
彼は危険。
また、何故かわからないけれど凄く彼に近づいてはいけないような気持ちにもなった。
その彼は私のことなど気にも止めずに鞄を軽く肩にかけて、静かに風だけを残して通り過ぎていった。