Snow White Princess
仕事の帰り道、僕は紺色のマフラーを首に巻き付け、コートを着て道を歩く。今日は久しぶりに定時で帰れた。

息を吐くたびに、白い息が現れては消える。道には雪が積もっていて、空には灰色の雲がある。また雪が降ってきそうだ。

道を歩いていると、通り道にケーキ屋さんがあることを思い出した。いつもは早足で通り過ぎてしまい、お店の中に入ったことはない。

「……買って帰ろうかな」

チラリと見えたケーキがおいしそうで、僕は迷わずにケーキ屋の中へ入る。ケーキ屋の甘い香りを嗅ぐのは何年ぶりだろう。

僕には、付き合って同棲している彼女がいる。彼女の仕事はフリーランス。パソコンとインターネットさえあればどこでも仕事ができる。だから、家の家事は昼間は彼女に任せきりだ。お礼には足りないかもしれないけど、感謝をどうしても伝えたい。

「どれもおいしそうだな……」

ショーケースに入れられたケーキはたくさんあり、選ぶことができない。どうやらテレビでも紹介された有名店らしく、ケーキ屋の中には次々に人が入って来た。
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