sweetな彼とbitterなハニー
とにかく優しくしたり、食事に誘ってみたりと頑張るものの涼音はなかなか誘いには頷いてはくれなかった。
そこで彼女が部内で一番なついていると思われる高野さんに相談した。
「三橋さんと食事に行きたくって誘うんですけど断られるんですよね。脈無しってことですかね?」
飲みながら珍しい話を始めた俺に高野さんはニヤリと笑いつつ言った。
「涼音ちゃんは、あんたの周りに寄ってくるタイプの子達とは違うからね。あんたの優しい振る舞いも、その自慢のイケメン顔もあまり今回は役に立たないね」
その言葉に、軽くどころか結構凹んだのは言うまでもない。
望みは薄いのだろうか、でも俺としては真面目でいい子で、笑うと可愛い彼女に振り向いてほしいのだが……。
「とにかく、あんたは周囲に良い顔しすぎなのよ。そこを何とかしないと難しいんじゃない? でも、時期的にはいいチャンスよね。逆バレンタインとかやってみたら案外上手くいくかもね?」
ニヤニヤとした笑いで言われた言葉に一縷の望みをかけて、俺は涼音が入社した初めてのバレンタインに彼女に似合いそうなヘアピンとチョコレートを用意して渡した。
人生でバレンタインに初めて異性にプレゼントした。
いつもはホワイトデーに適当にお返しを用意するだけだったから。
こんなにドキドキするものなんだなと思いつつ、渡すと彼女は驚いた顔をした後に少しはにかんだ笑みを浮かべて「実は……」と言いながら、俺に手作りのバレンタインチョコをプレゼントしてくれた。
いままでで一番うれしいバレンタインになったし、その時告白してから俺たちは付き合うようになった。
俺は社内でも付き合いを隠すつもりは無かったが、涼音は違ったらしい。
「女同士って面倒なの。人気者の柊吾さんと付き合ってるのがバレると会社で過ごしづらくなるから」
涼音にそう言われれば、涼音の立場や周囲との関係もあるだろう飲み込むしかなかったがまさかそれでデートに行くのも気を遣うようになり、気づけば互いの部屋を行き来するお家デートばかりになってしまった。
それも落ち着くし、料理上手な涼音と一緒にキッチンで料理するのも楽しくって次第に俺は一緒に暮らすことを考え始めたのだが涼音はまだ入社二年目。
早いだろうと、三年目にはプロポーズしようと密かに三年目に再び逆バレンタインを計画していた矢先だった。
「今年はおせんべいにするわね」
涼音にそう予告された三度目のバレンタイン。俺としては涼音がくれるなら何でも良かった。
「待ってるよ」
だから、そんな返事をしてしまった。涼音からの言葉のサインを俺はすっかり見過ごしていたのだ。