sweetな彼とbitterなハニー
今年も就業中にも関わらず空気の読めない女子社員に囲まれて一日を送り仕事が思うようにはかどらず、なんとか仕事を終えた時には終業時刻から三時間が経っていた。
自席に戻るとたくさんの箱の中に大袋のせんべいがあるのに気づく。
「本当にせんべい用意したんだな」
思わず眺めて声に出るも誰もいない部屋に静かに響いただけ。
そのせんべいに涼音とは違う字で付箋が付けられていた。
「あんた、このままじゃ捨てられるわよ?」
その字は間違いなく高野さんのもの。
その言葉で、俺はハッとした。
自分の構想に浮かれていて、今日の様子や今までの付き合い方を相手がどう思っているかなんて想像していなかった。
言葉や態度では彼女にきちんと気持ちをいつも伝えていたけれど、もしかしたら、涼音は言わなかっただけで嫌な思いをしていたんじゃないか?
付き合っていることは隠しても、彼女がいることくらい話してチョコの受け取り拒否だってできたのにこじれたり根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で避けてしまった。
そんな態度の彼氏を見ててどう思うだろうか。
いいわけがない。
思えば去年だって手作りのお菓子をしっかり当日に手渡ししてくれたのに、今年はデスクにおせんべいが置かれているだけ。
このままでは、大事な彼女が離れて行ってしまう。
俺は、コートを引っ掛けカバンを掴むと駆け出した。
大事な人に、大事だってことと一生のお願いをするために。
電車でたった二駅が嫌に長く感じる。
メッセージを送っても既読にもならない。
はやる思いで電車を降りて、彼女の部屋まで走る。
なりふりなんて構っていられない。
部屋にたどり着き、インターホンを押す。
「はい、どなたですか?」
「俺」
やはり、スマホを見ていなかったのかそんな声がして彼女はモニターを確認した後でちょっと気まずそうに返事をした。
「柊吾さん、ごめんなさい来ると思ってなかった。そうぞ」
開けてもらえたオートロックに胸をなでおろしつつ、彼女の部屋に向かう。
「お疲れ様。って柊吾さんどうしたの?」
俺の少々乱れた服装や髪形に驚いた顔をする彼女に、俺は抱きしめて言う。