春夏秋冬
親指
「あ、また」
リビングのソファーに座ってテレビを見ていると、ママが声を上げた。
あたしは口元にある親指を慌てて下ろした。
「ごめん」
「別に謝ることはないけど、見てて気持ちのいいものじゃないから注意してるのよ」
爪も傷むしね。
ママはそう付け加えた。
「治ったつもりでいたんだけどなあ」
「クセなんてそんなもんよ」
ママは笑った。
「前は全部の爪がボロボロだったから、その頃に比べたら大分マシになったわよね」
「うん。気をつけたもの」
「何か悩んでるの?」
ママの問いに、あたしはちょっと考える。
「うーん、特に悩んでるわけでもないけど」
「そう」
ママはそれ以上深く話を進めてくる事をしなかった。テレビからの笑い声がリビングに響いた。