春夏秋冬





真実が髪を切ったのは、梅雨明けが近づいた頃だった。

背中の中程まであった髪を、ばっさりとショートにしたのだ。

真実が教室に入ってきた時、クラス中が少しどよめいた。


「どうして切っちゃったの?」

あたしが聞くと真実は、

「暑くなるじゃない」

と言って笑った。いたずらっ子のようなその顔に、短い髪がよく似合っていた。

髪を切った理由を誰に聞かれても、真実はそう答えたみたいだ。


「ねえ、真実、一体どうしちゃったの?」

真実が職員室に日誌を取りに行っている間、斜め前の席のトモエがあたしに聞いた。

「わからないの。暑くなるからとしかいわないし」

「本当にそれだけ?失恋したとかじゃなくて?」

「そんなことは、言ってなかったけど」

そう言うとトモエは、ふーん、と納得がいかないようにうなずいた。


それでも三時間目の休み時間には、真実が失恋で髪を切ったのだという噂が流れていた。

しかも失恋相手は、三年のサッカー部のキャプテンだったり、二年の陸上部エースだったり、隣のクラスで真実の幼なじみの冬吾くんだったり、あの、矢島悠斗だったりした。
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