春夏秋冬


その時だった。

ガラッ。

教室の後方の戸が開いた。

あたしはビクリとしてドアを見た。


「あ、」


そこから現れたのは、


「矢島、くん」


矢島悠斗だった。


「西沢さん。ちょうどよかった」


矢島くん、あたしの苗字を知ってたのか。


「これ」


そう言って矢島悠斗は手の平に乗ったものをあたしに見せた。


「あっ!あたしの携帯!」

「ああ、西沢さんのだったんだね」

「うん。どこにあったの?」

「美術室に落ちてた。プリクラが貼ってあったからさ、西沢さんか高野のだと思ったんだよね」


あたしは、携帯に貼っていた自分と真実のプリクラに感謝した。

矢島悠斗は、あたしのところまで真っすぐ歩いて来て携帯を差し出す。

「本当にありがとう!」

携帯を受け取って、あたしは矢島悠斗にお礼を言った。

「どういたしまして」

矢島悠斗は笑った。

入学式の時の桜の木の下での笑顔が重なる。

お礼をいう立場は逆だけど。

「ありがとう、矢島くん」

あたしはもう一度お礼を言った。
< 18 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop