春夏秋冬
美術室の男の子
矢島悠斗の姿を初めて見た時、妙な違和感を感じた事を覚えている。
風の強い日だった。
桜は惜し気もなく花びらを散らした。
新品の制服に身を包む生徒たちが、入学式会場いっぱいにずらりと並ぶ。
アリみたいだと思った。
動かないアリ。あたしも今、アリの一員だ。
校長先生の話がマイク越しに、空気を振動させた。
内容はさっぱり頭に入って来ないし、人の多さで空気がこもっている。
――――眠い。
なんだか頭がぼんやりとしてきた。
「起立!」
司会の先生の声が会場の空気を引き締める。
がたがたと椅子が揺れる音があちこちからあがる。
あたしのようにぼーっとしていた生徒が多かったのだろう。
アリの集団は酷くばらばらだ。
そして、そのアリの集団からさらにワンテンポ遅れて立ち上がった、斜め前の男子。
状況を確認するように周囲を見つめた瞬間に見えた、少し長めの前髪の下の鋭い瞳が、残像のように焼き付いた。