春夏秋冬
美術室の前に着く。
電気はついてるけど、やけに静かだ。
耳をすませてみるけど、中から人の話し声はしない。
先輩は本当にいるのかな、と思いながら扉をノックした。
「…はい」
微妙な間があって、先輩ではない人の返事があった。
「失礼します」
あたしは静かに扉を開いて、中へ入った。
外はまだ明るいし、そのうえ電気がついているのに、なんだか薄暗い室内だ。
中を観察して、窓際に座っている人影を見つけた。
「あっ…」
あたしは思わず声を上げた。
同じクラスの、矢島悠斗だった。
「あ、」
矢島悠斗も、あたしの顔を覚えていたんだろう。
「えっと、同じクラス、だよね?」
名前を覚えていないことを、気まずく思ったんだろう。なんだか微妙な表情を浮かべていた。
「そう。同じクラスの高野真実」
「あ、そうだ、高野さん。俺、矢島悠斗」
あたし達は互いの名前を確認した。