春夏秋冬


少しだけ胸が軋んだ。


「あ、ねえ、何描いてるの?」


胸の違和感を掻き消すように、あたしは口を開く。


「これ?」


矢島悠斗のキャンバスには、どんよりとした重い藍色の油絵の具が広がっていた。

上の方に向かって少しずつ色が明るくなっている。


「海の絵を描こうと思ってるんだ」


でもなかなかうまく行かない。矢島悠斗は呟く。


「ずいぶんと暗い海なのね」

「うーん、そうだね。本当に暗いな」


矢島悠斗は自嘲気味に笑う。

そしてキャンバスを見つめると、すうっと表情を無くし、そのまま、喋らなくなった。
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