【完】ボクと風俗嬢と琴の音



「あ、やべ、仕事遅れる!
じゃ俺行くね!」


「は~いいってらっしゃい~!!」


玄関で靴を履いてると
ひとりと一匹。
行ってらっしゃい、と誰かに見送られるのは気分が良いものだ。


今日も良い1日になりそうだ。


憂鬱だった朝が少しだけ楽しくなったのは、誰のお陰だったか。





「井上っ!昼からある会議の資料まとめておいて!」


今日も会社に着く早々木村さんに仕事を押し付けられる。
…押し付け…。られても全然いいんだけどさぁ。


新しく発売されるらしいお菓子の試作品が山のように並んでいる。
優弥は、この会社に入って、5キロ太ったと嘆いていた。
お菓子メーカーとはそういうところだ。
営業をかけるわけだから、自社の商品をよく知っておかなければいけない。


けど、俺はお菓子があまり好きではない。
だって体に悪いし、健康志向の俺にとっては…


目の前に山積みになってるお菓子を見て、琴子が見たら感激するんだろうなぁ~っと想像する。
あの子はお菓子が好きだ。



お洒落なお店で食べるパンケーキやパフェには興味がないらしいが
コンビニで手頃に買える新作のお菓子には目がないそうだ。
仕事が終わって、家でゴロゴロしながら、お菓子を食べる時間は至福だと言う。


そういう人の為に、お菓子業界は息をしているのかもしれない。


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