【完】ボクと風俗嬢と琴の音
木村 麻子 (年齢不詳。おそらく30前半)
この女上司が出会った頃から苦手だった。
仕事は出来て、上司からの評価は高い。
真面目な性格で、自分にも他人へも厳しい。
誰よりも仕事に真っ直ぐに取り組んでいるのは知っているし、残業だって人一倍しているのを知っている。
良いところも知っている上で、苦手なのだ。
なんて言っても高圧的な人間は苦手なもので
飲みに誘われてきっぱりと断れない自分も嫌だ。
優弥や周りの人は木村さんは美人だ、という。
そう、木村さんは美人でスタイルが良い。 モテない訳ではないと思うが、男性は近寄りがたい存在だと思う。
俺は木村さんに嫌われていると思っていた。
だから今回の出張の同行者が自分であるのも、正直マジかよと思った。
泊っているビジネスホテルから近い繁華街で
木村さんは「ここにしよ」と昭和チックな味のある居酒屋さんを勝手に決めて
すたすたと中に入っていく。
俺はまるで金魚の糞のごとく彼女の後についていく。
そういえばこの出張でも俺はずっと金魚の糞のようだった。
必要だったのだろうか…。
生ビールふたつと、適当につまみを注文して、俺たちは乾杯をした。
小汚い居酒屋。でもこういう雰囲気は嫌いじゃない。